3パターンの漆の研ぎ出し方法をご紹介します。
研ぎ出し方法 例1 <山立てを使用したシンプルな2色の研ぎ出し>
虫食い状の模様が出る研ぎ出し方法です。
以下参考手順となります。
①赤の漆と、絵皿、キッチン用スポンジを用意します。スポンジは使いやすいようにカットしておくと便利です。
②漆は原液のまま使用します。スポンジの背面の目の粗い方に漆をつけ、ポンポンと押し付けていきます。
本来は「へちま」を使用して行いますが、このようなスポンジでも代用ができます。
押し付けてから離す時に上に引っ張るイメージで、漆を立たせるようにすると凹凸ができやすくなります(これを「山立て」といいます)。
漆を薄めて使用すると、山が立っても平滑になろうとするため、あまり凹凸ができにくくなってしまいます。
③全体にまだらに処理をします。研ぎ出しをした際に、山立てした山の頂点が残るようになります。
逆に谷の部分はこのあと塗る黒となる部分になります。完成後のイメージをしながら処理するようにしてください。
漆は厚塗りをすると硬化が非常に遅くなるばかりか、厚すぎると内部がいつまでもやわらかい状態になってしまいます。
局部的に厚くなりすぎないように注意してください。この工程では厚めに塗っているため、最低でも3~5日は暖かいところで硬化させるようにしてください。
④赤の漆がしっかり硬化していることを確認してから黒を塗ります。
硬化していないと後々ちぢみが起きたりしますので注意が必要です。
この時は適度に溶剤で薄めて塗ります。薄めることで伸びやよくなり塗りやすくなり、硬化も早くなります。
反面塗膜が薄くなりがちで下地が見えてしまう場合があります。その場合一度に厚く塗ろうとはせず、硬化後にもう一度黒漆を塗れば大丈夫です。
またあまり黒を厚く塗りすぎてしまうとこの後の研ぎ出しで赤が出にくくなってしまいます。
塗り終わると表面に山立てした凹凸が確認できます。
⑤研ぎ出しに入ります。#320~400位の耐水ペーパーを使用します。
消しゴムや木の板に巻きつけて十分水をつけた状態で研ぎ出しをします。
こうすることで表面を平らに研磨することができます。
注意すべき点は一度に平らになるように削らないことです。へこみがあっても構わないのである程度模様が出てきたら良しとします。
始めはこのくらいでやめておきます。この後本透明を塗り研ぎ出し、本透明を塗り研ぎ出し・・・を繰り返していきます。
そうすることで、少しずつ赤い部分が出てきてさらには谷間が埋まって平らになっていきます。
砥いでは本透明を塗りを10回ほど繰り返した状態です。
後半になるにつれヤスリの番手を#600~800位まで上げていきます。
後半はほぼ表面に塗った本透明のみを削るような感じになります。
この後仕上げの塗りとなる為、この時点で好みの模様に砥ぎだしておく必要があります。
本透明を重ねて塗ることで、クリヤー層が厚くなり深みのある光沢が得られます。
⑥最終の艶出し処理に入る前に、#800~1500ほどの耐水ペーパーにて表面をつるつるに仕上げます。
このままコンパウンド仕上げで艶を出していくこともできます。
今回は仕上げの塗りをしたうえでコンパウンド仕上げをすることにしました。
⑦表面に凹凸がなくつるっとした状態にできたら、薄めた本透明を塗り仕上げます。
この時は比較的多めに溶剤を入れて薄めます。厚く塗らず薄塗りで処理します。
⑧仕上げの塗りできれいに塗れればそれで完成です。
ただ筆塗りではどうしても均等に塗れなかったり、ゴミ等の「ブツ」が発生しやすいです。それらはコンパウンド掛けで処理していきます。
小さなブツは#800~1500のペーパーで削ります。
当然表面は艶がなくなってしまうので、コンパウンドの中目・細目・超微粒子等を順番にかけていき艶を出していきます。
コンパウンドは塗膜が硬くないと効き目が弱いので、しっかり数日乾燥させてから処理するようにしてください。
研ぎ出し方法 例2 <乾漆を使用した研ぎ出し>
乾漆を使用した研ぎ出しです。
乾漆はその粗さをそのまま生かす塗り方をしたり、色々な色の乾漆を混ぜて使用したりする場合が多いようです。
今回は乾漆を下地のベースとして使用しています。こういった使用方法もできるという一例です。
以下作業手順となります。
①今回はベースとなる乾漆として朱赤を用意しました。
乾漆はそのままでは竿に付着しませんので、接着剤として漆の赤や朱赤を使用します。漆は溶剤で若干薄めます。
②手早く全体に漆を塗布します。
③乾かないうちに全体に塗布します。
指で押さえたり、粉の上で転がしたりしながらしっかり密着させます。
しっかりと密に敷き詰めることが重要です。
隙間が空いていると、このあと研ぎ出しをした時に赤が反映しない空間ができてしまいます。
しっかりつけることができたら軽くたたいて余分な粉を振り落とします。
どうしても密着できていない部分ができてしまったら、部分的に同様に処理することで修正することができます。
ただ場合によってはその部分だけが盛り上がってしまう可能性があります。
そうなると砥ぎだした時にその部分だけがフラットな赤になってしまう可能性があるので注意しましょう。
④金粉を使用します。
金粉もそのままでは付着しませんので、漆を接着剤に使用します。使用する色は透・透明・本透明などです。
金粉は漆に付属しているものでもいいですし、別途用意しても構いません。
今回使用したのは、「クラチ・ピカエース顔料」の「金粉・青口」です。写真のような容器に入れて使用しました。
⑤溶剤で薄めた漆の「透」を塗布します。
⑥上の写真は筒の先端にネットを取り付けたものです。
中に金粉を入れて「トントン」することで少しずつ粉が出る仕組みになっています。
ただ今回は振りかける面積広いので容器から直接振りかけた方が早いので、下に紙を敷いて豪快に振りかけました。
これも素早く処理しないと下地の漆が乾燥してきてしまいますが、金粉の粒子が細かいので乾漆に比べると密着しやすいです。
密に振りかけることができたら軽くたたいて余分な粉を落としておきます。
金粉は非常に粒子が細かく少しの風でも舞い上がってしまいます。
無風の場所で行うことはもちろんですが、万一吸い込んでしまわないようにマスクをして作業することをお勧めします。
⑦次の作業に入る前に表面に残っている金粉を歯ブラシなどで落としておきます。
しっかり密着できていれば剥げてしまうことはありません。
処理ができたら薄めた漆の「透」を塗布します。
「透明」や「本透明」でなく「透」を使用する理由は、重ねることで色が濃くなりやすい為です。
今回は乾漆を使用しているため、谷の部分にこの「透」がたまるようになります。
「透明」「本透明」に比べて色に深みが出ると判断して「透」を選択しています。
⑧1回目の研ぎ出しです。#320~400にてパターン1同様に軽く水砥ぎします。
下の朱赤が軽く見えてくるぐらいで十分です。
⑨この後は「例1」同様、透漆を塗っては研ぎ出しの繰り返しとなります。
少しずつ模様がはっきりしてきて、徐々に谷間が埋まって平らになっていきます。
平らになるまではこれを繰り返していきますが、決して焦って削りすぎないことです。
一気に削りすぎてしまうと赤が強くなりすぎてしまったり、きれいなまだら模様が出なくなってしまいます。
その点を意識しながら少しずつ削りだす必要があります。
ここまでの処理で10回ほどは塗りと砥ぎを繰り返しています。
⑩このまま仕上げまで透漆でもいいですが、色が濃く(暗く)なりすぎるのが嫌ならば途中から透明や本透明に変えて処理することで透明感が増します。
写真で黒く見えるところがありますが、黒い漆は塗っていません。
これは谷間部分に透漆が積層されていくことで色が濃くなって黒く見えるだけです。
今回はある程度平らになったところで本透明に変更しました。
平らになった後も数回本透明を重ねることで深みが増します。この際も一回ごとペーパーをかけるようにします。
最終的につるつるの状態にして仕上げの処理をします。
仕上げの処理は「例1」と同じです。
⑪しっかり乾漆を敷き詰め、少しずつ砥いでは塗りを繰り返すことで全体に均等な模様ができます。
乾漆に隙間が空いているとその部分が黒く(暗く)なります。
削りすぎてしまうとその部分はフラットな赤になってしまいます。
とにかく一気に削りすぎないことが重要です。
乾漆の朱赤や金の上に透・本透明が重なっていきますが、その厚みが少しずつ違うことで色味が濃い場所や薄い場所が出てきます。
結果これがいい味を生み出します。
研ぎ出し例 パターン3 <貝粉(螺鈿)を使用した研ぎ出し>
貝粉(螺鈿)を使用した研ぎ出しです。
貝は結構な厚みがあるため塗りの回数も増えます。
貝粉のつける量によって模様はかなり変わってきます。
以下参考手順となります。
①貝粉をつけるためにベースに漆を塗ります。今回は黒をベースにします。
若干溶剤で薄めることで塗りやすくなります。
②漆が乾かないうちに貝粉を振りかけます。
好みの模様になるように想像しながらランダムに振りかければ結構です。
今回は密集したところとそうでないところを作ってみました。
最終的に研ぎ出しをした時に、貝がついている周りに模様ができます。
ついてないところはフラットになりやすいと考えてください。
③赤を塗ります。若干溶剤で薄めて塗ります。
一回の塗りで下地があまり消えないようであれば2回塗っても構いません。
今回は2回塗りました。
④乾燥後、同様に緑を塗り重ねます。
⑤金粉を使用します。
「例2」と同様接着剤として透漆を塗ります。透の代わりに透明や本透明でも構いません。
※写真は黒く見えますが透漆です。
金粉を振りかけます。
「例2」と同様しっかり敷き詰めます。
乾燥後は歯ブラシで余分な粉を落とします。
⑥黒を塗ります。
今回は2回塗りました。
⑦研ぎ出しをします。初めの削りは貝が少し顔を出すくらいでやめておきます。
この後は「例1」「例2」同様、透き漆を塗っては砥ぐを繰り返して平らにしていきます。
ほぼ平らになるまでは6~8回ほど繰り返します。
ある程度深みのある色合いになったら、後半は透を透明や本透明に変えてもいいです。
⑧溝が埋まり、十分深みが増したら仕上げの処理をします。
これ以降はその他のパターンと同様です。
貝を頂点として模様が出てきます。
金色の部分に透漆が重なることで金色に深みが出てきています。
透漆を重ねすぎると金色が茶色になってしまうので調整しながら処理してください。
当店で扱っている漆は本漆でなくいわゆる「合成漆」というものです。
ほとんどかぶれることなく使用でき、室もいらず硬化するため気軽に使えます
仕上がりはプロの職人が見れば違いが判るでしょうか、一般の人には本漆との違いを見分けるのは困難です。
本漆の塗り方をそのまま参考にすることもできますので、色々な塗り方を試してみてもいいと思います。
コンプレッサーやエアブラシ・スプレーガンなどが無くてもきれいな塗装ができるのも魅力の一つです。
しばらくお待ちください