投稿者名:タックルオフ工房
2018/01/19 閲覧数:21,842
こんにちは。
タックルオフ工房の曽根です。
昨年末の依頼になりますが、イカダ竿の穂先の作成依頼がありましたので「削りの工程」を紹介させていただきます。
以前に一度作業させていただいた方からのご依頼です。
前回コピーさせていただいた穂先をもう一本作ってもらいたい…というご依頼でした。
今回送られてきた穂先は、前回コピーさせていただいた穂先になります。
つまり今回はコピーのさらにコピーということになります。
まずはオリジナル穂先のデータを取ります。
写真のように、おもりをぶら下げてペンで印(点)をつけます。
点を線で結んで曲線にします。
この時フリーハンドで書くとどうしても綺麗に曲線を引くことができません。
私は「雲形定規」というランダムに湾曲している定規を使用しています。
目安としてこの曲りになるように削りだしていきます。
穂先のコピーを作成する場合は、ベースとなる素材選びが重要となります。
全体のおおよその曲がり具合を見たり、ノギスでテーパーの確認をします。
そして数ある素材の中から、どれを使用すれば求める調子を出しやすいかを判断して選びます。
今回は前回のデータが残っていたため、素材選びには苦労しませんでした。
素材の選定が決まったら、削りだしていきます。
同じものを何本も削るというのであれば、削り方のデータを残しておけばいいと思います。
下の画像が一例です
素材となる穂先、使用するヤスリ、削る位置と回数などが記されています。
各工程には削った後の素材の太さがするされています。
この工程通り同じ力加減で削ることでほぼ同じ太さに削る出すことができます。
ただ同じ径になったからといって同じ調子になるわけではありません。
微調整で調子を整えていくため、工程4以降に関しては各個所の太さのデータは意味がなくなります。
また重要な点として、使用するヤスリは同じメーカーを使用することをお勧めします。
同じ番手でもメーカーによって粗さが変わる為、削れ具合が大きく変わってしまいます。
ただ今回のようなワンオフの依頼の場合はその都度データを残すようなことはしません。
どこをどう削っていけばこの調子になるか・・・これにはある程度経験が必要です。
慣れてしまえば使用するヤスリの銘柄も変わったとしても問題は無いです。
途中でゲージにて確認しながら削りだしていきます。
ある程度目標の調子に近づいてきたら、曲りの微調整をしながら最終調整をしていきます。
少し硬くなっている部分にマジックで印をつけます。
その部分を軽く削りだします。
比較的先端部分である為、400番のペーパーで軽くはさみ削ります。
目安としてはマジックが消えるか消えないかくらいの段階でやめます。
こうして微調整しながら、曲がり具合を合わせていきます。
ここでいくつか注意していただきたい点があります。
グラスソリッドには、チューブラ素材と同じく「スパイン」と呼ばれる硬い部分が存在します。
その為、上の写真のおもりをぶら下げた状態から90度ソリッドを回すと・・・
このようにゲージの曲りよりも硬い状態になってしまいます。
これは硬いスパイン上で曲がっているからです。
硬い部分のスパインを「背」といいますが、逆にやわらかい部分を「腹」といいます。
どちらを使うかは個人の好みとなります。
私は腹側を使用することが多いです。
イカダ竿の穂先は食い込みを重視することも多いので、やわらかい部分を使用した方がいいと考えるからです。
また、下向きのリールであればさほど問題はございませんが、上向きのリールを使用した場合、スパイン側にガイドをつけると魚とのやり取りの際に穂先が「ねじれる」ことがあります。
これはスパイン上では曲りが不安定であるためで、どうしても横にある腹側に曲がろうとするためです。
また、穂先は基本的に「反り」が発生してしまいます。
元々の素材が完璧にまっすぐなものも少ないですし、削りだすことで反りが出る場合もあります。
その為この反りに合わせてガイドを取り付ける場合も多いかと思います。
これも個人の好みとなりますが、これについては後でもう少し説明させていただきます。
もう一つ注意したい点があります。
写真のようなゲージの曲りに合わせただけでは、必ずしもオリジナルと同じ調子にはならないということです。
これは穂先先端から30cmの部分が支点となっていますが、仮に15cmのところを支点にしたとすると曲りがオリジナルと合わない場合があります。
全体的な曲りを見ることはできますが、更に細かい部分の調子を合わせる場合には支点を変えてチェックする必要があります。
調子の削り出しができたら込みを作成します。
穂先の先端をモーターに直接セットすることはできませんので、写真のように細いパイプにセットします。
始めは荒目の番手(120番くらい)でガリガリ削っていきます。
ある程度削れたら番手を上げて表面を整えながら削っていきます。
途中ノギスで測りながらやると失敗が少なくなります。
元竿に合わせてみて込み具合のチェックをします。
今入る個所で印をつけたりしながらどこを削ればいいか確認しながら削りだしていきます。
目標の位置まで差し込むことができました。
ここで終わってもいいですが、私はコンパウンドで磨く処理をしています。
これをすることで表面に艶ができるのですが、決してそれが目的ではありません。
こうすると元竿に差し込んだ時の、ザラツキ感や引っかかりがなくなりいい感じで差し込むことができます。
これで削り出しは完了ですが、先端部分の「ネジレ」を修正します。
穂先は削りだされる際に、ねじれてしまっている場合があります。
このねじれた状態のままガイドをつけますと、数日後ガイドが曲がってしまっている・・・といったことがあります。
これはねじれた穂先が、もとに戻ったためにおこります。
この「ネジレ」は熱を加えることでもとに戻ります。
一般的には熱湯を数回かけたりしますが、準備も面倒ですしやけどする可能性もあります。
今では写真のようなヒートガンを使用して曲りを解消しています。
強力なドライヤーみたいなもので、500度ほどの熱風が出てきますので注意が必要です。
そんな高温にさらして大丈夫なのか・・・と思われるかもしれません。
実際に実験してみましたが、一箇所に数十秒熱風にさらしても張りがなくなったり簡単に折れてしまったりといったことは見られません。
ただ、グラスを形成している樹脂に影響が出ている可能性は大ですので、実際は軽く熱風にさらす程度でやめています。
また、熱した直後は場合によっては変形しやすくなっています。
その為熱した直後に穂先を曲げると折れる可能性がありますので注意が必要です。
またライターやアルコールランプ等の「直火」でやるのは絶対にやめた方がいいです。
温度がヒートガンよりも数百度高くなりますのであっという間に燃え出します・・・
ただ最近は削り方を調整することでほとんど「ネジレ」は発生していないようです。
マジックで印をつけてから熱してみますが、ねじれた痕跡は見当たらない場合も多いです。
あとは塗装して・・・
ガイドをつけるだけです。
ガイドを取り付けることで、硬さが若干硬くなります。
この穂先は市販のミニクロガイドの足を半分にカットして取り付けています。
少しでも曲りに影響を与えないようにするための工夫です。
またガイドをつける際に瞬間接着剤を使用することが多いと思います。
注意したい点として、瞬間接着剤を使用するとガイドを取り付けた面とは逆に反りが出てきます。
つまりガイドを下に向けた場合、穂先が上に反るようになります。
この為削った後、穂先に反りがある場合、反りが出ている面(垂れている側)にガイドをつけることである程度まっすぐに修正できる場合もあります。
瞬間を使用せずにエポキシのみで処理すればおきません。
また上記のようにガイドの足を短くカットすることで、反りを小さくすることができます。
もう一度ゲージにてチェックしましたが、ほぼ同じ曲りで仕上がりました。
イカダ竿の穂先はこの釣りの一番重要な部分になります。
好みの穂先でアタリをとって釣りができるジャンルはあまり多くありません。
またどんなにベテランでも、うっかり穂先を折ってしまうこともあります。
購入するとなると1本1万円を超える穂先もありますよね。
自作すれば2,000円程度で作ることが可能です。
自分で削りだした穂先で釣れた時の感動は、市販品では味わえない満足感があります。
是非チャレンジしてみてください。
こちらのDVDにてイカダ竿の作り方が1からわかります。
東邦産業 ロッドビルディングパーフェクトガイド3 カセ・イカダ竿編
今回ご紹介した穂先の削り方も動画で見ていただいた方がわかりやすいと思います。
トータルで6時間の超大作です!
眠れないときに見れば睡眠導入効果もありますのでお勧めです(笑)
DVDの内容に関してご不明な点があればこちらまでご連絡ください。
また最新のカセ・イカダ竿の作り方をブログで紹介させていただいています!
よろしければこちもらもご覧ください!
しばらくお待ちください